万葉歌 もえる「も」のエネルギー 

2019年6月18日

石走る 垂水の上の さわらびの 萌え出(いづ)る春に  なりにけるかも

(巻八・一四一八 志貴皇子)

「岩を叩き しぶきを散らす滝のほとりの蕨が 芽を出し始める春に なったんだ」

鮮烈な谷川の情景に 小さくとも蕨の芽がしっかりと出てきて活き活きと春の訪れを告げてくれます。

大地とも呼応するかのような水音も力強く、目覚めの振動が期待に膨らんでゆくわくわく感を一層大きくしています。

思わず口ずさみたくなる有名な歌のひとつです。

「萌える」ということ

仏教に「四苦八苦」という言葉があり、ちょっとあたふたしたことの言い回しに使われます。

人生の苦しみを表したもので生老病死」の四つさらに四つの苦しみが加わります。その四つとは

「愛別離苦(あいべつりく)・愛するものと別れる苦しみ」

「怨憎会苦(おんぞうえく)・憎しみと出会う苦しみ」

「不求得苦(ふぐとっく)・欲しいものが得られない苦しみ」

そして

「五蘊盛苦(ごうんじょうく)」です。

五蘊とは、般若心経でもおなじみですが、生命が構成されているとされるもので

色(肉体)・受(感情)・想(知覚能力)・行(行動を生み出す意思)・識(それらを統合する判断能力)で、この五蘊があるがゆえに人間が人間になるということなのですが、同時に煩悩も生まれるのです。

それら五蘊の働きが盛んに起こってくることの苦しみ、ということになります。      

そして私は、「萌える」という言葉がうまく表しているように思います。

「燃える」の激しさに対して

「萌える」はやさしくて女性的ですが、なかなかどうして

内側から次々とわき上がり、際限なくどんどん広がり続ける様子が連想できます。

例えば心の中で思うことであっても、あっという間にふくらんでいっぱいになってしまう。

「ああ、もう、どうしよう」という状況、、

「萌え~」という言葉が流行したように、幼子や小動物に接した時に共感された体験あるかもしれませんね。

「茂」「盛」「藻」などの「も」の音に共通する自力では制御できないほどに広がってゆく力。

春に草木などが一斉に一挙に芽吹き育つ様子は、激しいまでの生命力といえるでしょう。 

「も」=「母」の生み出す力

そしてまた「母」の「も」でもあります。

桃色は子宮に宿る赤ちゃんが感じている色とも言われます。

「母=も」は産み出す力であり、愛情の大元であり、あらゆる可能性を育ててゆこうとする母の愛そのもの。

時には、一方的な権限も行使し、母性愛は盲目なところもあったりする

そして、喜怒哀楽が豊かで何かと大揺れ、等々。。

何かもう、お母さんの本質を余すところなく表していていると言えるかもしれません。

太古から親しみと共に崇められてきた母性・女性性。

こういう豊かさを大切に生かしいよいよ本来の輝きを放つ時代だと思います。