万葉歌 桜花 「ふ」震える増える

2019年4月14日

我が背子が 古き垣内(かきつ)の桜花
いまだ含(ふふ)めり 一目見に来ね

(巻十八 四〇七七 大伴家持)

「あなたの旧宅垣根の中の桜の花は、まだつぼみです。一目見にいらっしゃい。」

親しい友に、かつて住んでいた屋敷の桜が咲き始めているよ、見においで、と呼び掛けている歌です。

ともに眺めた時のことが懐かしく思い出されたことでしょう。

この歌は地方長官として越中に赴任していた大伴家持が、転勤したかつての部下で歌の仲間である大伴池主から贈られた歌に応じたものです。

桜花 今そ盛りと人は言へど 我はさぶしも 君としあれば

(巻十八 四〇七四 大伴池主)

「桜は今こそ花盛りだと人は言いますが、私は寂しい。あなたといっしょではないので。」

こういう歌のやり取りからも、万葉の時代から桜が人々に親しまれ、屋敷の庭にも植えられていたことがわかります。

さて、この歌で表されている「含(ふふ)めり」という言葉ですが、今では使われていないので新鮮な響きを感じます。

しかしまた、とても馴染む言葉でもあり、蕾のふくらむ感じが何よりもよく出ていて、香りまでほんのり漂ってくるかのようです。

「ふ」の音、「ふ」のつく言葉には、ふっくら ふわり など、やわらかで心地よい感覚がもたらされます。

このような、広がる・大きくなることを表す言葉として「膨らむ」「太る」「増える」「含む」「ふくよか」などがありますね。 

ここで同じ「ふ」のつく「冬(ふゆ)」という言葉を見てみると

語源には、

  • 「冷ゆ(ひゆ)」
  • 「振るう(ふるう)」
  • 「震う(ふるう)」

また、動物が出産するという意味の「殖ゆ(ふゆ)」などがあげられています。

冬は冷たい、冷える季節。そして、春になれば動物の出産シーズンなので、その時までお腹の中で動物の赤ちゃんが育っている状態ということになりますね。

では、振るう・震うとは、どういうことを意味しているでしょうか?

冬になると、木々の葉は落ち、降り積もった雪に覆われたり、冬眠している動物もあるでしょう。

大自然の中ではひっそりと静止したかのような景色が思い浮かびます。

でも、実は大地の土の中では、新芽を出す準備が進められているのです。何かが振るわせるのか、自らが震えだすのか。。

始めはかすかな振動ですが、連動し合って、やがて大地を動かし始めます。

春に向かって一斉に草木が芽吹くエネルギーはすごいものですね。太陽の光も、温かさを含んだ風も後押ししてくれます。

それは、まるで陣痛のようではありませんか。

先触れ、先駆けのように、も日本列島を駆け上がりながら、春を告げてゆく季節です。