万葉歌 御食つ国について
朝凪に 梶の音聞ゆ 御食(みけ)つ国 野島の海人(あま)の船に しあるらし
(巻六・九三四 山部赤人)
「朝凪の静かな海上に梶の音が聞こえてくる。天皇のお食事に仕える国たる野島の漁師の船であるらしい」
野島というのは淡路島にあって昔から天皇家へ海産物などを献上する御食国(若狭国・志摩国・淡路国など)でした。
そんな島の朝です。浜に出てみると、波間はまだ朝の穏やかな光が揺らめいて、遠くに聞こえてくる船を操る梶の音が響いています。ただただ海の情景がどこまでも広がり、ただただ清浄で美しい。気持ちがその自然と同化するようにどんどん広がってゆきます。なんと豊かなのでしょう。
こういうところで取れる産物だからこそ天皇に献上されるのか、また献上する想いがこんなにも島の精神性を高めるのか、と作者の赤人さんも想いを巡らせられていたかも知れません。
御食は御饌とも書き、お祭りなどで神様に献上するお食事(神饌)のことです。
神様にお食事を差し上げておもてなしをして、そのお下がりを参列した人たちでいただく「神人共食(しんじんきょうしょく)」が、日本の祭りの特徴でもあると言われています。
こうして捧げたものを共に食することにより、神様と一体感を持ち、その加護と恩恵をいただくのが「直会(なおらい)」という儀式です。
お供えする品目としては
穀物・・・日本人は稲作の伝来以降、春に田を耕し、秋に収穫を得る生活を社会の基盤とし、米には稲魂が宿ると考え、米と深いかかわりを持って生活をしてきました。そのため飯、餅、酒など米から作られる食物は神饌の中心となります。
その他の特徴的な食材・・・塩、水を基本としつつ、海魚、川魚、野鳥、水鳥(限られた神社で獣肉も)、海藻、野菜、果実など、地元の産物、歴史的に特別な由来のあるものなどがあります。
古来よりゴマ、カヤ(榧)、クルミなどから精製された油があり、油でいためたり、揚げたりの調理法は唐から伝わっており、それらの食品は唐菓子と呼ばれ神饌に加えられてきました。
神饌には、生のまま供えられる生饌(せいせん)と調理したものをお供えする熟饌(じゅくせん)があります。
食べ物の意味を表す御饌の「け」という言葉ですが、朝餉(あさげ)夕餉(ゆうげ)などの食事を表す意味にも使われますね。
ケはキに音が変化するので(例・ケガレ=氣+枯れ)、氣に通じるのかもしれません。
とすると食べ物のの本質は、神様の氣が宿るものであり、それを身に受け入れること。
それによって元になる氣を得られること。(元氣)
というふうに理解できますが、どうでしょうか。

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